Mr.Childrenやスピッツを彷彿? Official髭男dismがオーバー30にも響く理由

ひげだんが広い世代を惹きつける理由

 昨年2月にデビューした山陰発のピアノPOPバンド「Official髭男dism」が、このほど2ndミニアルバム『MAN IN THE MIRROR』を発表した。前作『ラブとピースは君の中』から約1年を経てリリースされた本作は、彼ららしいポップネスが存分に発揮されながらも、リード曲「コーヒーとシロップ」しかり、「恋の去り際」しかり、ふとした瞬間に切なさがよぎるような、味わい深い仕上がり。バンドとしての“奥行き”を意識した選曲がなされている。すでに今月3日から解禁となった先行ダウンロード版は、配信初日にいきなりiTunesロックチャートで1位を獲得と好調ぶりを発揮。総合では惜しくも2位にとどまったものの、彼らに対する注目度はじわじわと勢いを増しているようだ。

 2012年に、島根大学に通う学生らで結成された平均年齢23歳の「Official髭男dism」。ファンからは“ひげだん”の愛称で親しまれ、今年2月に地元から上京して以降は、ライブを中心に精力的な活動を展開してきた。全楽曲の作詞作曲を担当するのは、Vo&Keyのフロントマン、藤原聡。スティーヴィー・ワンダーらモータウン系の音楽に影響を受けたという彼が生み出すサウンドは “ピアノPOPバンド”を名乗るにふさわしく、弾けるようなキャッチーさが魅力だ。さらに、藤原自身のハスキーで抜けの良い声質、リズム隊のグルーヴ感も相まって、ソウルフルな香りも漂ってくる。シンガーソングライターのaikoや「赤い公園」の津野米咲ら、有名アーティストの中にもファンを公言する声は多く、業界内での評判も上々。現在のところ、ライブ動員の中心は10〜20代の若者となっているが、その実、30代以上からも厚い支持を受けているという。彼らが幅広い年代のリスナーを惹きつけるワケとは、一体どこにあるのだろうか。

 昨今、音楽シーンに登場する新人バンドには、変則リズムや打ち込みサウンドがひとつのトレンドとして存在していた。音楽シーンに敏感な若者層の感性を刺激し、巻き込むためには、まずもってインパクトが大事。実際、それでシーンを席巻したバンドも少なくない。しかし、「Official髭男dism」が目指したのは、あくまでシンプルに“歌もの”であり続けること。メロディーにしろアレンジにしろ、真面目に忠実にポップさを追求している。

 私は彼らの楽曲を初めて聞いた時、90年代初頭のMr.Childrenやスピッツを思い出した。当時、バンドといえばビジュアル系やパンク風(でなければ渋谷系)が台頭する中で、彼らの “歌”を聴かせるバンドとしての姿勢は少しばかり異色に映ったもの。しかし、その後の展開はご存知の通り。世代を超えたファンを獲得し、あれから20年以上経た今もなお国民的バンドとしての地位を揺ぎないものにしている。現在のJ-POPシーンにおいて「Official髭男dism」がまとう空気も、当時のミスチルやスピッツととても近しい。トレンドとは対極にありながら、確実に支持層を拡げている点。そして30〜40代の音楽ファンには演奏力や楽曲センスで抜群の安定感を感じさせる一方、若い層には歌詞のリアリティやライブ映えするノリの良さでアピールする姿勢。まさに全方向に攻め入る体制だ。ギターの小笹がデビュー前のインタビューで語った「性別も年齢も越えて聞いてもらえるような新しいスタンダードになりたい」との所信表明が、早くもかたちになろうとしている。

 去る6月11日には韓国で初の海外&ワンマンライブを成功させ、7月からは新作『MAN IN THE MIRROR』を引っさげての初ツアーが開始と、“初”づくしで勢いに乗る。その後に控える夏フェスシーズンも、各地で引っ張りだこになりそうな気配だ。まだまだ知名度こそ低いものの、この支持の厚さをもってすれば今後大きく飛躍する可能性は大。“ひげだん”の名前が日本中に知れ渡る日も、そう遠くないかもしれない。

(文=板橋不死子)

■リリース情報
『MAN IN THE MIRROR』
発売:6月15日(日)
価格:¥1,500(税抜)
<収録曲>
1.Clap Clap
2.コーヒーとシロップ
3.Happy Birthday To You
4.恋の去り際
5.ゼロのままでいられたら
6.日曜日のラブレター

■ライブ情報
『THE DAILY MIRROR tour 2016』
7月16日(土)大阪・2nd LINE
7月17日(日)愛知・名古屋Heart Land(w/コアラモード.)
7月23日(土)東京・渋谷TAKE OFF 7

地元単独公演
8月6日(土)島根・松江canova

■オフィシャルサイト
http://higedan.com/

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